週報:【人間理性に基づくシオニズム】(2021/09/26)


シオニズムの父として知られるテオドール・ヘルツル(1860―1904)が書いた「ユダヤ人国家」というシオニズムの古典によれば、シオニズムの動機はユダヤ人が迫害されていたことにあります。すなわち、ユダヤ人の国家が建設されれば、そこにユダヤ人が集合するのだから、各国に少数派として住んでいるユダヤ人が迫害されなくなり、諸々の国の人たちに煙たく思われているユダヤ人たちが遠くに行くので、ユダヤ人にとっても全世界にとっても幸いではないかと。この思想にユダヤ人であるということで迫害や苦痛を受けていた多くのユダヤ人が共鳴したので、イスラエル国家が建設されるに至ったのです。なるほど、この思想は理性的に考えれば建設的であり、悪くないと思えます。イスラエル国家が出来れば迫害も止み、特にユダヤ人の多くいるヨーロッパの人たちが清々するだろうからです。ナチス・ドイツもユダヤ人絶滅政策に乗り出す前までは、ユダヤ人を移住させて追い払おうとしていました。何故なら、ナチスはユダヤ人が煙たくて仕方なかったからです。ところが、このシオニズムという思想、シオニストにとっては不幸なことに聖書の支持がありません。ヘルツルも、ユダヤ人が自分たちの国家を建てるべきなのは宗教ではなく民族的な必要性に基づいていると示しています。ユダヤ教徒の聖典である旧約聖書によれば、ユダヤ人たちの解放と幸福はメシアの到来と共に訪れます。しかし、シオニストは自分たちの努力や知恵で解放と幸福を得ようとしています。つまり、シオニストたちは単に自分たちの理性的な願いに基づいてシオニズムに賛同しているだけなのです。更に彼らには不幸なことに、ユダヤ教のもう一つの聖典であるタルムードも、シオニズムを支持していません。タルムードによれば、ユダヤ人たちの国は武力などの強制力によって獲得されるものではありません。しかし、今のイスラエル国家は力により国家を確立させようとしています。ですから、超正統派の中の超正統派と言われるネトゥレイ・カルタのユダヤ教徒たちはシオニズムに反対しています。彼らはユダヤ人たちの解放は自分たちで作り出すのではなくメシアが到来することで実現すると考えています。彼らは旧約聖書とタルムードにユダヤ教徒としてよく精通しているように思えます。このシオニズムはあまりにも無謀だと言わざるを得ません。ユダヤ人たちはパレスチナの地に入り込み、強制的にパレスチナ人の土地と権利を今でも奪い取っています。そしてパレスチナ人が抵抗したり報復すれば、それに対して数十倍、数百倍の復讐を加えています。こんなことが神に喜ばれるはずはありません。彼らは律法の「り」の字も知らないのです。これは中国とそっくりです。中国は自分たちが悪をしていながら、その悪が処罰されたり制裁されたりすると、それに対して必ず報復します。自分たちに加えられた処罰や制裁に報復するというのは、悪を行なっている意識がない証拠です。ユダヤ人も中国人も倫理的な無感覚に陥っています。ヘルツルはユダヤ人国家が出来れば迫害も止むと期待しましたが、実際にイスラエルが建国されると今度はアラブ人との問題が生じるようになりました。パレスチナにいるユダヤ人は今でもハマスの発射する数千ものロケット弾にしばしば怯えさせられ、危機が起きたら防空壕に退避せねばなりません。これは呪いであると思われます。神は明らかにシオニズムを嘉しておられません。もし御心であれば、ヨシュアの時と同じように圧倒的な征服の勝利を獲得できていたでしょう。神とその言葉が支持していないということこそ、シオニズムの最大かつ決定的な問題点なのです。もし神とその言葉が支持していれば、私もシオニズムを認めていたでしょう。しかし、私に対してこのようなことが言われるかもしれません。「いや、神の言葉の支持がないわけではない。それは約束の地がアブラハム、イサク、ヤコブとその子孫に与えられると創世記で言われていることだ。ユダヤ人たちはこの約束に基づいて、シオニズムを実行しているのである。」よろしい、この約束が今のユダヤ人にとってもまだ有効であると仮に認めましょう。しかし、あの地がユダヤ人に与えられているという約束のゆえパレスチナ人の追放または殲滅が許されるとすれば、どうしてその約束を直接神から受けたアブラハムとイサクとヤコブは、生きている間にあの地の住民であったカナン人たちを追い払ったり滅ぼしたりしなかったのでしょうか。それは、まだこの3人が生きている時には「カナン人たちを滅ぼせ。」という神からの命令が与えられていなかったからです。ですから、この3人はカナンに旅人として寄留するだけで、そこを実際に占領しようとはしなかったのです。モーセとヨシュアの時代になって、初めてあの地の住民を滅ぼし尽くして占領せよという命令が出ました。だからこそ、カナン侵攻は合法的であり、神の御心に適っていたのです。このため神はユダヤ人と共に戦って下さり、カナン人たちは圧倒的な敗北を喫したのでした。ですが今のユダヤ人たちには「パレスチナ人たちを滅ぼせ。」という神の命令がありません。ですから、彼らがパレスチナ人を抑圧し駆除しようとしているのは違法であり、神の御心に適っていないのです。このため神は今のユダヤ人シオニストたちと共におられず、パレスチナ人たちは一向に滅ぼされる気配がないのです。もし約束の地に関する御言葉をシオニズム運動の根拠とするのであれば、どうしてその御言葉を直接聞いていたアブラハムとイサクとヤコブはカナンを占領しようとしなかったのか説明しなければいけません。つまり、約束の地に関する御言葉だけでは根拠として駄目であり、実際的な占領命令が出ていることを示せなければなりません。確かに神はカナン侵攻の時には「カナン人を滅ぼせ。」と命じられましたが、今のシオニズムにおいては「パレスチナ人を滅ぼせ。」と命じておられません。ですから神の命令を持っていないシオニズムが最終的に行き着く結末は悲惨なことになるでしょう。